世界遺産シリーズ 

NO.1 [アマルフィ/イタリア]

 

 伝説になった世界遺産……、アマルフィ海岸

 

ナポリの南約50kmほどの場所に「世界でいちばん美しい」といわれる海岸がある。

その昔、ギリシア神話の英雄ヘラクレスは愛する妖精の死を悲しみ、世界でもっとも美しい場所に亡がらを埋め、永遠にその名を残すため に彼女の名をつけたという。そのような伝説に彩られたイタリアの世界遺産「アマルフィ海岸」を紹介する。 

「世界でいちばん美しい」海岸

アマルフィ海岸、ポジターノからプライアーノにかけての景色

ラッターリ山脈の山々 がティレニア海に一気に落ち込んで

リアス式の海岸を形成している様子がよくわかる

 

およそ40kmほどもある海岸線は複雑に入り組んで、切り立った断崖は抜けるような青空と透き通る 紺碧の海をつないでいる。岬に挟まれた入り江にはパステル・カラーに彩られたかわいらしい家々が並んでいて、空と海の青の間でのん びり輝いている。

レモンから作ったリキュールで、アマルフィの名産リモンチェッロの店

 

家々を取り囲んでいるのはレモンとオリーブの木。

潮の香りを豊かに含んだ柔らかい潮風に、若い実が爽やかに揺られている。

海岸を行くバスは右に左にくねりながら山々を抜け、海に飛び出した断崖の先端であわてて道路に戻る。 眼下には丸い地平線と幾重にも重なる美しい岬、岬、岬。岬の下では白い砂浜が数か所、真珠のように輝いている。 真珠の周りはエメラルドグリーンで、やがて海は沖の深い青へとグラデートする。

 

夕方、街々の鐘の音がそれぞれの入り江から響いてくる頃、白壁の家々は赤く染まり白い輝きはやがて黄色い街の灯に変わり、星空に 混ざって消えていく。

アマルフィ海岸と妖精たちの伝説

共和国の中心、アマルフィの街並み

 

かつてはイタリア四大海洋都市としてピサ、ジェノヴァ、ヴェネツィアと覇を競い合ったアマルフィ。

アマルフィの街にはこんな伝説が残っている。

ギリシア神話に登場する英雄ヘラクレスは、愛する妖精と共に暮らしていた。

しかし、幸福の最中、妖精は突然亡くなってしまう。ヘラクレスは深く嘆き悲しみ、その妖精の名を永遠のものとするために、世界でもっとも美しい場所に亡がらを埋め、街を切り拓いて彼女の名をつけた。こうして誕生したのがアマルフィの街なのだという。

一方、アマルフィの西にあるポジターノには、ギリシア神話の海の神ポセイドンが、愛する妖精パジテアにこの街を贈ったことからその名 がついたという伝説が残っている。

街にはポセイドンやパジテアの名を冠した通りやホテルがいくつもあり、伝説はいまも伝えられているようだ。

絶壁にたたずむ邸宅とアマルフィ海岸

 

ポジターノ近くのガッリ諸島にはギリシア神話の怪物セイレーンが住みついていたといわれている。 セイレーンとは、上半身が人間の女性、下半身が鳥(後に魚)の姿をした伝説上の生き物で、海の岩の上に座って美しい歌を歌い、船人たちを惑わして難破させ、海に引きずり込むのだという。実際にガッリ諸島の3つの島の周囲の海中には、多くの難破船が沈没しているらしい。

 

天国の地獄 、アマルフィ海岸

円すい形をした山を取り囲むようにして家々が連なるポジターノの家並み。

パステル・カラーの色使いがとてもかわいらしい

 

アマルフィ海岸の美しい姿は「天国」にたとえられ、それゆえたくさんのギリシア神たちが自分の恋する妖精たちにこの景色を贈った。でも、街を歩いてみると、散策が意外とたいへんであることがわかる。

断崖を背にしたアマルフィの街並み。中央がドゥオーモの鐘楼